
高血圧の典型症例
[医師解説] 高血圧の典型症例
ページ更新日:2025.9.1
高血圧は「サイレント・キラー」とも呼ばれ、自覚症状がないまま進行し、ある日突然、脳卒中や心筋梗塞などの深刻な病気を引き起こす可能性があります 。ここでは、会社の健康診断で高血圧を指摘された50代の男性Aさんの症例を通して、診断から治療、そしてその後の生活の変化までを解説します 。
症例紹介
- 患者: 50代、男性(Aさん)
- 主訴:
会社の健康診断で血圧が高い(162/104 mmHg)と指摘されたため - 既往歴: 特になし
具体的な症状と現病歴
Aさんは管理職として多忙な日々を送っており、特に自覚症状は全くありませんでした 。そのため、「自覚症状がないのに本当に治療が必要なのか?」と半信半疑の状態でした 。しかし、高血圧を放置した場合の脳卒中や心筋梗塞といったリスクを知り、特に「静かなる殺人者」という言葉に恐怖を感じ、受診を決意しました 。
診断と検査
自覚症状がない高血圧の場合、まずそれが本当に治療が必要な「高血圧症」なのか、また、他の病気が隠れていないか(二次性高血圧)を慎重に見極める必要があります 。
- 鑑別診断:
腎臓病や内分泌系の異常が原因で血圧が上昇する「二次性高血圧」の可能性を考慮しましたが、Aさんには強く疑わせる身体所見や病歴がなかったため、「本態性高血圧」の可能性が高いと判断しました 。 - 診察室血圧測定:
複数回測定した結果、収縮期血圧は常に150 mmHg台、拡張期血圧は90 mmHg台後半と、診察室血圧の基準値(140/90 mmHg)を一貫して超えていました 。 - 家庭血圧測定:
自宅で測定した血圧の平均値は145/95 mmHgで、家庭血圧の基準値(135/85 mmHg)も超えていることが確認されました 。 - 血液検査・尿検査:
腎機能やホルモン値に明らかな異常はなく、二次性高血圧の可能性が低いことが裏付けられました 。 - 心電図・胸部X線検査:
この時点では、心臓への明らかな負担(心肥大など)を示す所見は見られませんでした 。
これらの結果から、Aさんは「本態性高血圧症」と最終診断されました 。これは、心臓への負担がまだ軽微なうちに治療を開始できる重要なタイミングでした 。
治療方針と経過
Aさんと治療方針について話し合い、まず治療の重要性を丁寧に説明しました 。高血圧が血管に持続的な圧力をかけ、動脈硬化を進行させること、そして将来の心血管疾患のリスクを高めることを伝え、「今の治療は、10年後、20年後の健康を守るための投資です」と説明しました 。
- 生活習慣の改善指導:
治療の根幹として、以下の指導を行いました 。- 食事療法:
1日の塩分摂取量を6g未満に抑えることを目標とし、具体的な調理法や食品の選び方をアドバイスしました 。 - 運動療法:
週に3回、1回30分程度のウォーキングから始めるよう指導しました 。 - その他:
節酒と禁煙を勧めました 。
- 食事療法:
- 薬物療法:
生活習慣の改善と並行して、降圧目標達成のために薬物療法を開始しました 。副作用が少なく効果が安定しているARB(アンジオテンシンII受容体拮抗薬)が少量から処方されました 。
Aさんは真面目に生活改善に取り組み、毎朝の血圧測定を日課としました 。治療開始から3ヶ月後には、家庭血圧は平均120/70 mmHg台で安定するようになりました 。Aさんからは「体重が3kg減り、体が軽くなった」という嬉しい報告がありました 。
まとめ
Aさんの症例は、日本の高血圧患者さんの中で最も典型的なケースの一つであり、「症状がないから問題ない」と自己判断しないことの重要性を示しています 。健康診断で血圧が高いと指摘された場合、それは体からの重要なサインです 。高血圧の治療は「薬を飲み始めたら一生やめられない」と心配されがちですが、Aさんのように生活習慣を改善することで、薬を減らせる可能性もあります 。医師と患者が協力して治療に取り組む「二人三脚」が何よりも大切です 。
免責事項:
本記事で取り上げた症例は、典型例を基に個人が特定されないよう変更を加えたフィクションです。記載の内容はすべての患者に当てはまるわけではなく、一般的な情報提供を目的としています。本記事は医学的助言の提供ではありません。ご自身の症状や治療については、必ず専門の医療機関にご相談ください。