しんふぜん

心不全の症状と原因 
症状、原因、治療法、そして日常生活での注意点

その他内科疾患

ページ更新日:2025.9.1

心不全とは?定義とメカニズム

「心不全」という言葉は、特定の病気の名前ではなく、心臓の働きが弱った結果として起こるさまざまな症状の総称です。日本循環器学会と日本心不全学会のガイドラインでは、「心臓が悪いために、息切れやむくみがおこり、だんだん悪くなり、生命を縮める病気」と定義されています。

心臓は全身に血液を送り出すポンプの役割を担っていますが、この機能が低下すると、主に二つの問題が起こります。一つは、全身の臓器や筋肉に十分な血液(酸素や栄養)を送り出せなくなることで、疲れやすさやだるさを感じます。もう一つは、血液が心臓に戻りにくくなり、体内に血液が滞る「うっ血」という状態です。これにより、肺に水がたまると息切れが、足に水がたまるとむくみが生じます。

高齢化に伴い患者数が増加しており、「心不全パンデミック」とも言われています。特に80歳以上では10人に1人が罹患しているという報告もあります。

心不全の主な症状チェックリスト

心不全の症状はゆっくりと現れることがあり、見過ごされがちです。以下の症状に心当たりがないか、チェックしてみましょう。

  • 階段を上ったり、少し体を動かしただけで息が切れる
  • 夜、横になると咳が出たり、息苦しくて眠れなかったりする(起坐呼吸)
  • 足のすねや甲を手で押すと、跡がなかなか消えない(むくみ)
  • 靴や靴下の跡が目立つようになった
  • 特に理由がないのに、1週間で2~3kg体重が増えた
  • 疲れやすく、体がだるいと感じることが増えた
  • 夜中に何度もトイレに起きるようになった(夜間頻尿)
  • 食欲がない

これらの症状は、心臓からの「助けを求めるサイン」かもしれません。特に、安静にしていても息苦しい場合や、急に症状が悪化した場合は、速やかに医療機関を受診することが推奨されます。

心不全の原因とリスク要因

心不全は、心臓に長期間負担をかけるさまざまな病気が原因となって発症します。心臓の機能を低下させる主な原因には、以下のようなものがあります。

  • 高血圧
  • 虚血性心疾患(心筋梗塞や狭心症など)
  • 弁膜症
  • 心筋症
  • 不整脈(脈の乱れ)
  • 糖尿病
  • 腎臓病
  • 加齢

これらの病気は生活習慣と深く関わっていることが多く、心不全は「生活習慣病の終着駅」とも言われます。

心不全の検査と診断基準
何科を受診すべきか

心不全が疑われる症状がある場合は、まず循環器内科を受診しましょう。診断は、問診で症状を詳しく伺った後、以下のような検査を組み合わせて行われます。

  • 血液検査
    心臓に負担がかかると血液中に増えるBNPやNT-proBNPというホルモンの値を調べ、心不全の重症度を判断します。
  • 胸部レントゲン検査
    心臓の大きさや形、肺に水がたまっていないか(肺うっ血)などを確認します。
  • 心電図検査
    心臓の電気的な活動を記録し、不整脈や心筋梗塞の有無などを調べます。
  • 心エコー検査(心臓超音波検査)
    心臓の大きさや壁の動き、ポンプ機能、弁の状態などをリアルタイムで詳しく観察できる、非常に重要な検査です。

これらの検査結果を総合的に評価し、「急性・慢性心不全診療ガイドライン」などの基準に基づいて心不全の診断が確定します。

心不全の治療法:薬物療法とその他の選択肢

心不全の治療の目的は、症状を和らげて生活の質(QOL)を改善し、病気の進行を抑えて再入院を防ぐことです。治療は、薬物療法、生活習慣の改善、心臓リハビリテーションなどを組み合わせて行われます。

薬物療法

現在の心不全治療では、心臓を保護し、予後を改善する効果が証明された薬が中心となります。

  • 心臓の負担を軽くする薬
    ACE阻害薬、ARB、ARNI、β遮断薬などを使用し、心臓を過剰な刺激から守ります。
  • 体内の余分な水分を取り除く薬
    利尿薬を使用し、尿の量を増やしてむくみや息切れを改善します。
  • 予後を改善する新しい薬
    SGLT2阻害薬は、心不全による入院や死亡を減らす効果が証明され、広く使われています。

手術・その他の治療

薬物療法だけではコントロールが難しい場合や、原因となる病気によっては、以下のような治療法が検討されます。

  • 心臓リハビリテーション
    医師の指導のもと、運動療法や食事療法を行い、体力や生活の質を向上させ、再入院を防ぎます。
  • デバイス治療
    心臓の動きを助けるために、ペースメーカーや植込み型除細動器(ICD)などを体内に植え込む治療です。
  • 外科的手術
    原因となっている弁膜症や血管を治療する手術が行われることがあります。

まとめ

心不全は完治する病気ではありませんが、適切な治療と自己管理を継続することで、症状をコントロールし、より良い生活を送ることが可能です。心不全と上手く付き合っていくことが、健康な未来を守るための第一歩です。

免責事項:
本記事は疾患に関する一般的な情報提供を目的としています。記載内容には万全を期しておりますが、その正確性・最新性を保証するものではありません。本記事の情報は医学的アドバイスの提供ではなく、実際の診療行為に代わるものでもありません。症状や体調に不安がある方は、必ず専門の医療機関でご相談ください。 

文責
東大阪病院 循環器内科 部長
藤原 禎