
まんせいへいそくせいはいしっかん
慢性閉塞性肺疾患(COPD)の症状と原因
知っておきたい治療法と日常生活での注意点
ページ更新日:2025.9.1
「最近、階段を上るだけで息が切れる」「咳や痰がずっと続いている」といった症状に悩んでいませんか。もしかすると、それは「慢性閉塞性肺疾患(COPD)」かもしれません。COPD(英語名:Chronic Obstructive Pulmonary Disease)は、主にタバコの煙などの有害物質を長年吸い込むことで肺に炎症が起き、呼吸がしにくくなる病気です。「肺気腫」や「慢性気管支炎」と呼ばれてきた病気の多くが、このCOPDに含まれます。
日本の40歳以上の約530万人がCOPDの可能性があると推定されていますが、多くの方が診断や治療を受けていないのが現状です。
COPD(慢性閉塞性肺疾患)とは?定義とメカニズム
COPD(慢性閉塞性肺疾患)は、タバコの煙などを長年にわたって吸い込むことで、空気の通り道である気管支や、酸素の交換を行う肺胞(はいほう)に障害が起きる病気です。
私たちの肺は、気管支が枝分かれした先に、ぶどうの房のような小さな袋である「肺胞」がたくさん集まってできています。COPDでは、主に以下の2つの変化が起こると考えられています。
- 肺胞の破壊(肺気腫):
有害物質によって肺胞の壁が壊れ、酸素を取り込み二酸化炭素を排出する機能が低下します。 - 気管支の炎症(慢性気管支炎):
気管支の壁が厚くなったり、痰が増えたりすることで、空気の通り道が狭くなります。
これらの変化により、息をスムーズに吐き出すことが困難になり、息切れや呼吸困難といった症状が現れます。一度壊れてしまった肺胞の組織は、残念ながら元の状態に戻ることはありません。そのため、病気の進行をいかに早く食い止めるかが非常に重要になります。
COPDの主な症状チェックリスト
COPDの症状はゆっくりと進行するため、初期には気づきにくいことがあります。以下のような症状が続く場合は、COPDのサインかもしれません。40歳以上で喫煙歴のある方は特に注意が必要です。
- 坂道や階段の上り下りで息切れがする
- 重い荷物を持って歩くと息苦しい
- 風邪でもないのに咳や痰がよく出る
- 痰の色が黄色や緑色を帯びている
- 呼吸をするときに「ゼーゼー」「ヒューヒュー」という音がする
- 以前よりも風邪が治りにくくなった、長引くようになった
- 体重が減ってきた、食欲がない
これらの症状は、加齢によるものだと思い込んでしまうケースが少なくありません。しかし、「年のせい」と放置していると、病気が進行し、日常生活に大きな支障をきたす恐れがあります。気になる症状があれば、早めに医療機関を受診することが大切です。
COPDの原因とリスク要因
COPDの最大の原因は喫煙です。日本呼吸器学会の「COPD(慢性閉塞性肺疾患)診断と治療のためのガイドライン2022」によると、COPD患者の90%以上に喫煙歴があることがわかっています。タバコの煙に含まれる有害物質が、肺に慢性的な炎症を引き起こします。喫煙年数が長く、喫煙本数が多いほど、発症のリスクは高まります。
喫煙以外の原因としては、以下のようなものが挙げられます。
- 受動喫煙:
ご自身がタバコを吸わなくても、周囲の人のタバコの煙を吸い込むことでリスクが高まります。 - 大気汚染:
PM2.5などの有害な粒子状物質も、肺に悪影響を及ぼすと考えられています。 - 職業性粉塵:
仕事で粉塵や化学物質などを吸い込む環境に長期間いることも原因となり得ます。 - 遺伝的要因:
まれに、「α1アンチトリプシン」というタンパク質が生まれつき不足していることが原因で発症する方もいます。 - 加齢:
年齢を重ねること自体も、肺の機能が低下する一因です。
COPDの検査と診断基準
何科を受診すべきか
COPDが疑われる症状がある場合、まずは「呼吸器内科」を受診しましょう。
診断は、主に問診と呼吸機能検査によって行われます。
- 問診:
年齢、喫煙歴、症状の具体的な内容や程度、かかったことのある病気などについて詳しく確認します。 - 呼吸機能検査(スパイロメトリー):
COPDの診断で最も重要な検査です。スパイロメーターという機械を使い、思い切り息を吸い込んだ後に、できるだけ強く速く息を吐き出します。このとき、最初の1秒間で吐き出せる空気の量(1秒量)と、すべて吐き出したときの空気の量(努力性肺活量)を測定し、その比率(1秒率)を調べます。気道が狭くなっているCOPDでは、この1秒率が低下します。
その他、必要に応じて以下の検査が行われることがあります。
- 胸部X線(レントゲン)検査:
肺が過度に膨らんでいるか、他の病気の可能性がないかなどを確認します。 - 胸部CT検査:
肺気腫の状態をより詳しく評価するために行います。 - 血液ガス分析:
血液中の酸素と二酸化炭素の量を測定し、呼吸の状態を評価します。
これらの検査結果を総合的に判断し、「COPD(慢性閉塞性肺疾患)診断と治療のためのガイドライン」などの基準に基づいて診断が確定されます。
COPDの治療法:薬物療法とその他の選択肢
COPDの治療目標は、症状を和らげ、病気の進行を抑え、生活の質(QOL)を維持・向上させることです。残念ながら壊れてしまった肺の組織を元に戻すことはできませんが、適切な治療を続けることで、健やかな日常生活を送ることが可能になります。治療の基本は、「禁煙」「薬物療法」「呼吸リハビリテーションなどの非薬物療法」の3本柱です。
薬物療法
COPDの薬物治療の中心は、狭くなった気管支を広げて呼吸を楽にする「気管支拡張薬」です。多くの場合、吸入器を使って直接気道に薬を届ける「吸入療法」が行われます。
主な吸入薬には、長時間にわたって効果が続く「長時間作用性抗コリン薬(LAMA)」や「長時間作用性β2刺激薬(LABA)」などがあり、これらを単独または組み合わせて使用します。症状や病状によっては、気道の炎症を抑える「吸入ステロイド薬」が併用されることもあります。
これらの薬を正しく使い続けることで、息切れが改善し、運動できる範囲が広がり、症状が急に悪化する「急性増悪(きゅうせいぞうあく)」を防ぐ効果が期待できます。
手術・その他の治療
薬物療法と並行して、以下のような治療法も重要です。
- 禁煙:
治療の第一歩であり、最も重要な要素です。禁煙することで、呼吸機能の低下するスピードを緩やかにすることができます。自力での禁煙が難しい場合は、「禁煙外来」で専門家のサポートを受けることが推奨されます。 - 呼吸リハビリテーション:
息切れを軽くするための呼吸法(口すぼめ呼吸、腹式呼吸など)や、筋力・体力を維持・向上させるための運動療法、栄養指導などを総合的に行います。苦しいからと動かないでいると、ますます体力が落ちて息切れが悪化するという悪循環に陥りがちです。専門家の指導のもと、無理のない範囲で体を動かすことが大切です。 - 在宅酸素療法(HOT):
病気が進行し、血液中の酸素が不足する状態(呼吸不全)になった場合に行われる治療です。自宅に設置した機械で高濃度の酸素を作り出し、チューブを通して酸素を吸入します。これにより、息苦しさが和らぎ、活動範囲を広げることが可能になります。 - ワクチン接種:
COPDの患者さんは、インフルエンザや肺炎などの感染症をきっかけに症状が急激に悪化(急性増悪)しやすいため、インフルエンザワクチンや肺炎球菌ワクチンの接種が強く推奨されています。
▼日本におけるCOPDの死亡者数と死亡率(1995-2023年)

出典:一般社団法人GOLD日本委員会「COPDに関する統計資料」(https://www.gold-jac.jp/copd_facts_in_japan)
日常生活での注意点と予防・セルフケア
COPDと上手く付き合っていくためには、日々のセルフケアが欠かせません。
- 禁煙の継続:
治療の基本です。受動喫煙にも注意しましょう。 - 感染症の予防:
こまめな手洗い、うがい、人混みを避けるなどの基本的な対策を徹底しましょう。 - 適度な運動:
ウォーキングなど、無理のない範囲での運動を習慣にすることで、体力や筋力の維持につながります。 - 栄養バランスの良い食事:
COPDの患者さんは、呼吸に多くのエネルギーを使うため、痩せやすい傾向があります。タンパク質やビタミンなど、バランスの取れた食事を心がけ、体重を適切に管理しましょう。 - 呼吸法の習得:
口すぼめ呼吸などを日常的に行い、息切れをコントロールする方法を身につけましょう。 - セルフモニタリング:
毎日の体調や症状の変化を記録し、異常があれば早めに主治医に相談しましょう。
よくある質問(FAQ)
Q1. COPDは完治しますか?
A1. 残念ながら、一度壊れてしまった肺の組織は元に戻らないため、現在の医療ではCOPDを完治させることはできません。しかし、禁煙や適切な治療を続けることで、症状を和らげ、病気の進行を遅らせ、健康な人と変わらない生活を送ることを目指すことは可能です。
Q2. 禁煙すれば、肺は元の状態に戻りますか?
A2. 禁煙をしても、COPDによって壊れた肺胞が元に戻ることはありません。しかし、禁煙は肺の機能が低下していくスピードを緩やかにする最も効果的な方法です。何歳から始めても遅すぎることはありません。病気の進行を食い止めるために、できるだけ早く禁煙することが重要です。
Q3. 息苦しい時はどうすればいいですか?
A3. まずは慌てずに、楽な姿勢をとりましょう。壁に寄りかかったり、椅子に座って少し前かがみになったりすると呼吸が楽になることがあります。そして、ゆっくりと息を吐くことを意識した「口すぼめ呼吸」を試してみてください。それでも改善しない場合や、いつもと違う強い息苦しさを感じる場合は、ためらわずに主治医に連絡するか、救急車を呼ぶなどの対応が必要です。
Q4. 周りの家族ができることはありますか?
A4. ご家族のサポートは非常に重要です。まずは、患者さんが禁煙を続けられるように協力してください。ご家族も禁煙することが、最大の応援になります。また、患者さんの息切れなどの辛さを理解し、精神的な支えとなること、通院に付き添うこと、感染症を持ち込まないように注意することなどが助けになります。
まとめと次のステップ
この記事では、COPD(慢性閉塞性肺疾患)について解説しました。最後に、重要なポイントをまとめます。
- COPDは、主に長年の喫煙によって肺に障害が起き、呼吸がしにくくなる「肺の生活習慣病」です。
- 主な症状は、加齢のせいと見過ごされがちな慢性の咳、痰、そして労作時の息切れです。
- 治療の基本であり最も重要なのは「禁煙」です。何歳からでも禁煙を始める価値があります。
- 薬物療法や呼吸リハビリテーションなどの適切な治療により、症状をコントロールし、病気の進行を抑えることが可能です。
- 気になる症状があれば、自己判断せずに、まずは呼吸器内科の専門医に相談しましょう。
COPDは早期に発見し、適切な治療を開始することが、その後の生活の質を大きく左右します。この記事を読んで少しでも心当たりがある方は、ぜひ一度、医療機関を受診してください。
免責事項:
本記事は疾患に関する一般的な情報提供を目的としています。記載内容には万全を期しておりますが、その正確性・最新性を保証するものではありません。本記事の情報は医学的アドバイスの提供ではなく、実際の診療行為に代わるものでもありません。症状や体調に不安がある方は、必ず医療機関でご相談ください。