はいようしょうこうぐん

廃用症候群の症状と原因 
寝たきりを防ぐ予防リハビリと家族ができること

その他内科疾患

ページ更新日:2025.9.1

病気や怪我での入院などをきっかけに、心身の機能が急に衰えてしまうことがあります。これは「廃用症候群(はいようしょうこうぐん)」かもしれません。廃用症候群は、過度に体を動かさない状態が続くことで全身に様々な不調が現れる状態のことで、「生活不活発病」や「活動低下症候群」とも呼ばれます。特に高齢者の方に多く見られ、一度なると回復が難しい場合もあるため、予防が非常に重要です。この記事では、廃用症候群の定義とメカニズムから、具体的な症状、原因、そして最も大切な予防と治療法について、公的な情報に基づき分かりやすく解説します。ご自身やご家族の健康を守るための知識として、ぜひお役立てください。

廃用症候群とは?定義とメカニズム

廃用症候群とは、長期間の安静状態や活動性の低下によって引き起こされる、身体および精神の様々な機能低下の総称です。私たちの身体は、適度に動かすことでその機能が維持されるようにできています。しかし、病気や怪我の治療のために長期間ベッドの上で過ごしたり(長期臥床)、ギプスで固定したり、活動が制限されたりすると、使われなくなった機能は急速に衰えていきます。これが廃用症候群の基本的なメカニズムであり、まさに「使わない機能は廃れる」という状態です。特に高齢者の場合、短い期間の安静でも発症しやすく、注意が必要とされています。

廃用症候群の主な症状チェックリスト

廃用症候群の症状は、体の特定の部位だけでなく、全身の様々な機能に及びます。以下のようなサインが見られたら注意が必要です。

  • 筋力の低下と筋肉の萎縮(特に足腰が弱り、立ち上がりや歩行が困難になる)
  • 関節の動きが悪くなる(関節拘縮)
  • 立ち上がった時にめまいやふらつきが起こる(起立性低血圧)
  • 心臓や肺の機能が低下し、少し動いただけでも息切れがする(心肺機能低下)
  • 食欲がなくなり、意欲がわかなくなる
  • 認知機能が低下し、ぼんやりすることが増える
  • うつ状態になるなど、精神的に不安定になる
  • 寝たきりの場合に皮膚に床ずれができる(褥瘡)

これらの症状は、ごく初期の段階では「何となく元気がない」「疲れやすい」といった些細な変化として現れることがあります。立ちくらみや、歩くのがおっくうになった、といったサインを見逃さず、早期に対処を始めることが進行を防ぐ鍵となります。

廃用症候群の原因とリスク要因

廃用症候群の直接的な原因は「活動しないこと(不活発)」です。具体的には、以下のような状況が引き金となります。

  • 病気や手術後の長期入院、寝たきり状態
  • 骨折などによるギプス固定
  • 本人の意欲低下や認知症による活動量の減少
  • 転倒への恐怖心から動かなくなること
  • 介護者が心配するあまり、本人の活動を過剰に制限してしまうこと

特に高齢者はもともとの予備能力が低いため、若い人に比べて廃用症候群の進行が速い傾向があります。また、活動量が減ると食欲も低下し、「低栄養」の状態に陥りやすいことも大きなリスク要因です。厚生労働省や関連学会の研究報告によると、活動量の低下と低栄養が重なることで、症状がさらに悪化する悪循環に陥ることが指摘されています。

健康な人でもベッドで安静にしていると、1週間で10~20%、3~5週間で約50%もの筋力が低下するといわれています。

廃用症候群の検査と診断基準
何科を受診すべきか

廃用症候群が疑われる場合や、入院後の機能低下が心配な場合は、まずはかかりつけ医や入院していた病院の医師に相談しましょう。診断は、特定の検査だけで決まるものではなく、以下のような評価を総合的に行います。

  • 問診:
    どのような経緯で活動性が低下したか、現在の生活状況などを詳しく聞きます。
  • 日常生活動作(ADL)評価:
    食事、着替え、トイレ、入浴といった日常的な動作がどの程度自立して行えるかを確認します。
  • 精神・認知機能評価:
    MMSEなどのテストを用いて、認知機能の状態を確認します。

日本リハビリテーション医学会などのガイドラインでは、こうした多角的な評価に基づき、個々の状態に合わせたリハビリテーション計画を立てることの重要性が示されています。

廃用症候群の治療法:薬物療法とその他の選択肢

廃用症候群の治療の柱は、薬ではなく「リハビリテーション」です。低下してしまった機能を取り戻し、さらなる悪化を防ぐために、早期から積極的に体を動かすことが最も効果的です。

薬物療法

廃用症候群そのものを直接治す特効薬はありません。ただし、痛みが強くて動かせない場合には鎮痛薬を使ったり、骨粗しょう症の治療薬を用いたり、あるいは合併症である血栓症を予防する薬が使われることはあります。これらはあくまで、リハビリテーションを安全かつ効果的に進めるための補助的な役割となります。

手術・その他の治療

廃用症候群の治療の中心は、理学療法士(PT)や作業療法士(OT)といった専門家と共に行うリハビリテーションです。

  • 理学療法
    起き上がる、座る、立つ、歩くといった基本的な動作の訓練(早期離床)や、筋力トレーニング、関節が硬くならないための運動などを行います。
  • 作業療法:
    食事や着替え、趣味活動など、より応用的で実生活に即した動作の訓練を通じて、生活の質(QOL)の向上を目指します。
  • 栄養指導:
    リハビリの効果を高めるためには、十分な栄養、特に筋肉の材料となるタンパク質を摂取することが不可欠です。管理栄養士による食事のアドバイスも重要な治療の一部です。

ある研究では、高齢者の廃用症候群の約9割に低栄養が見られたと報告されており、リハビリと栄養管理は車の両輪であると考えられています。

日常生活での注意点と予防・セルフケア

廃用症候群の最も効果的な対策は「予防」です。入院中や在宅療養中から、以下の点を心がけることが推奨されます。

  • できるだけ早期離床を心がける:
    医師の許可が出たら、ベッドから離れて座る時間を作るだけでも効果があります。
  • 生活の中に運動を取り入れる:
    ラジオ体操や散歩など、無理のない範囲で体を動かす習慣をつけましょう。着替えやトイレなど、身の回りのことはできるだけ自分で行うこともリハビリになります。
  • バランスの良い食事:
    特に筋肉を維持するためのタンパク質(肉、魚、卵、大豆製品)と、骨を強くするカルシウムやビタミンDを意識して摂りましょう。
  • 社会とのつながりを持つ:
    家族や友人との会話、趣味の活動やデイサービスへの参加など、日中の活動を増やし、社会的な孤立を防ぐことも意欲の維持につながります。

よくある質問(FAQ)

Q1. 廃用症候群は治りますか?

A1. 一度低下した機能も、早期に適切なリハビリテーションを開始すれば、改善する可能性は十分にあります。しかし、安静にしていた期間が長かったり、ご本人の年齢や持病の状態によっては、完全に元通りになるのが難しい場合もあります。「治す」というより「今ある機能を最大限に活かし、生活の質を再建する」という視点が大切になります。

Q2. 本人がリハビリを嫌がるのですが、どうすればいいですか?

A2. 無理強いは逆効果になることがあります。まずは「なぜ嫌なのか」という本人の気持ちに寄り添うことが大切です。「疲れるから」「やっても意味がない」と感じているのかもしれません。理学療法士などの専門家と相談し、本人が楽しいと感じられる活動や、小さな成功体験を積み重ねられるような目標(例:「トイレまで自分で歩いてみる」など)を設定することが、意欲を引き出すきっかけになる場合があります。

Q3. 退院後の生活や介護が不安です。どこに相談すればいいですか?

A3.入院中の場合は、病院の医療ソーシャルワーカーに相談するのが第一歩です。在宅での介護サービスやリハビリについて一緒に考えてくれます。また、お住まいの市区町村にある「地域包括支援センター」は、高齢者の暮らしに関する総合相談窓口です。介護保険サービスの利用方法や、地域の様々なサポートについて情報提供や手続きの支援をしてくれるので、気軽に相談してみてください。

まとめと次のステップ

廃用症候群は誰にでも起こりうる状態ですが、正しい知識を持って早期に対策することで予防・改善が可能です。

  • 廃用症候群は「動かさない」ことが原因で起こる全身の機能低下です。
  • 最大の治療は「予防」であり、入院中など早い段階から意識することが重要です。
  • 治療の基本は「リハビリテーション」と「栄養管理」です。
  • 本人の意欲を引き出し、社会とのつながりを保つことも回復を支える力になります。

ご自身やご家族の様子で少しでも気になることがあれば、決して一人で抱え込まず、かかりつけ医や地域包括支援センターなどの専門機関に相談することが、次への大切な一歩となります。

免責事項:
本記事は疾患に関する一般的な情報提供を目的としています。記載内容には万全を期しておりますが、その正確性・最新性を保証するものではありません。本記事の情報は医学的アドバイスの提供ではなく、実際の診療行為に代わるものでもありません。症状や体調に不安がある方は、必ず専門の医療機関でご相談ください。

文責
東大阪病院 副院長 / 救急科医
前島 健志