尿管結石の典型症例

[医師解説]
尿管結石の典型症例:「突然の激痛」で救急受診されたAさんの診断と治療経過

専門医が典型例で解説

ページ更新日:2025.8.31

救急外来の日常診療において、尿管結石は非常に頻度の高い疾患の一つです。その痛みは「痛みの王様(King of pain)」と形容されるほど強烈で、多くの患者さんが強い不安を抱えて来院されます。

本記事では、尿管結石の典型的な症例を通じて、救急医がどのような思考プロセスで診断し、治療を進めていくのかを具体的に解説します。ご自身の症状と照らし合わせ、適切な医療機関受診のきっかけとなれば幸いです。

症例紹介

  • 患者: 50代、男性(Aさん・仮名)
  • 主訴: 左側腹部から背部にかけての激しい痛み、吐き気
  • 既往歴: 高血圧で内服治療中

具体的な症状と現病歴

Aさんは、休日の深夜に突然、左腰と脇腹に経験したことのない激痛を感じました。

痛みのあまり脂汗が止まらなくなり、立っていることも横になることもできないほどの七転八倒の苦しみだったと訴えていました。

痛みには強弱の波があり、少し楽になったかと思うと、また激しい痛みが襲ってくるという状態(疝痛発作)が続いていました。これが「痛みの波が来る」という尿管結石に典型的な症状です。

あまりの痛みに耐えかね、「このままではどうにかなってしまう」と感じ、ご家族が救急車を呼んだことで当院へ搬送されました。 診察室では、痛みの原因がわからず、「この終わりが見えない不安が辛い」と憔悴した表情でおっしゃっていたのが印象的です。

診断アプローチと臨床的思考

Aさんのような強烈な腹痛・腰痛で救急受診された場合、迅速かつ正確な診断を下すため、以下のような思考プロセスで診療を進めます。

鑑別診断

まず、生命に関わる緊急性の高い疾患を除外することが最優先です。Aさんの症状から、以下の疾患を念頭に置きました。

  • 大動脈解離・腹部大動脈瘤破裂:
    高血圧の既往があるため、血管系の疾患を疑います。しかし、痛みの性質が典型的な疝痛発作であること、血圧の左右差がないことから可能性は低いと判断しました。
  • 急性虫垂炎や大腸憩室炎:
    腹痛を起こす代表的な消化器疾患ですが、痛みの部位が典型的な右下腹部ではなく左側腹部であること、圧痛の場所が異なることから、可能性は低いと考えました。
  • その他:
    急性膵炎、腎梗塞なども考慮しますが、症状の典型性から尿管結失の可能性が最も高いと判断し、検査を進めました。

検査所見

問診と身体診察の後、客観的な診断根拠を得るために以下の検査を実施しました。

  • 尿検査:
    肉眼では分かりにくい微量の血液の混入(顕微鏡的血尿)を認めました。これは、結石が尿管の粘膜を傷つけることで起こる典型的な所見です。
  • 腹部超音波(エコー)検査:
    左の腎臓に尿が溜まり、腫れている状態(水腎症)を確認しました。これは、尿管に結石が詰まり、尿の流れが堰き止められていることを強く示唆します。
  • 腹部CT検査:
    診断を確定させるために実施しました。左の尿管中部(おへその高さあたり)に直径7mm大の結石を認め、その上流の尿管と腎臓が拡張している(水腎症)ことが明瞭に確認できました。

最終診断

以上の問診、身体所見、および各種検査結果から、「左尿管結石」と確定診断しました。

治療方針と経過

診断が確定した後、Aさんに現在の状況と今後の治療方針について詳しく説明しました。

患者への説明

まず、CT画像をお見せしながら、痛みの原因が7mmの結石であり、腎臓や尿管が腫れている状態(水腎症)であることを説明しました。その上で、「命に関わるような病気ではないこと」「痛みは薬でコントロールできること」を伝えました。

薬物療法

治療の第一選択として、以下の薬物療法を開始しました。

  • 痛みのコントロール:
    まずは激しい痛みを取り除くため、非ステロイド性抗炎症薬(NSAIDs)の坐薬を使用しました。これにより、Aさんの痛みは数時間のうちに大幅に軽減しました。
  • 排石促進:
    結石の排出をスムーズにするため、尿管の緊張を緩める作用のある薬(α遮断薬など)を処方しました。

生活指導

薬物療法と並行して、最も重要な生活指導として水分を十分に摂取するようお伝えしました。具体的には、「1日に2リットル以上の水分(水やお茶)を摂り、尿量を増やすことで結石を押し流すイメージです」と説明しました。

経過観察

Aさんは外来で経過を観察することになりました。痛み止めの頓服薬で痛みをコントロールしながら、水分摂取を心がけていただきました。

治療開始後、数日で激しい痛みの発作は起こらなくなり、デスクワーク中心の仕事にも復帰できました。

治療開始から約2週間後の外来受診時、再度CT検査を行ったところ、尿管にあった結石は消失しており、水腎症も改善していました。Aさんは「あの苦しみから解放されて本当に嬉しいです。と安堵の表情を見せていました。

一方で、「またあの痛みが来るのではないかという再発の恐怖はあります」ともおっしゃっており、今後は再発予防のための食事指導を行っていく予定です。

専門医からの考察とアドバイス

Aさんの症例は、尿管結石の典型的な経過の一つです。この症例から、同様の症状を持つ方々にお伝えしたいことがあります。

よくある誤解

「ビールを飲むと石が出る」は誤りです。 アルコールには利尿作用がありますが、同時に脱水を引き起こします。特にビールには結石の成分となるプリン体が多く含まれており、長期的には逆効果です。水分補給は水かお茶(麦茶、ほうじ茶など)が基本です。

「カルシウムを制限すれば良い」も誤解です。 結石の主成分はシュウ酸カルシウムですが、食事中のカルシウムを極端に制限すると、かえって腸管からのシュウ酸の吸収が増加し、結石ができやすくなることが分かっています。適切なカルシウム摂取はむしろ予防につながります。

早期受診の重要性

尿管結石の痛みは非常に強いため、ほとんどの方が医療機関を受診されます。しかし、痛みが引いたからといって放置するのは危険です。結石が詰まったままの状態が続くと、腎臓の機能が低下してしまう(水腎症による腎後性腎不全)可能性があります。

「おかしいな」と思ったら、自己判断で市販薬に頼るのではなく、まずは外来を受診し、正確な診断を受けることが何よりも大切です。CTなどの画像検査で結石の大きさや位置を正確に把握することで、自然排出の可能性や、体外衝撃波(ESWL)や内視鏡手術(TUL)といった積極的な治療が必要かどうかの的確な判断が可能になります。

まとめ

今回は、50代男性Aさんの尿管結石の症例を通して、診断から治療までの流れを解説しました。突然の激しい腰痛や腹痛、血尿は尿管結石の重要なサインです。今回の記事が、同様の症状で悩む方々が適切な医療を受けるための一助となれば幸いです。

免責事項:
本記事で取り上げた症例は、典型例を基に個人が特定されないよう変更を加えたフィクションです。記載の内容はすべての患者に当てはまるわけではなく、一般的な情報提供を目的としています。本記事は医学的助言の提供ではありません。ご自身の症状や治療については、必ず専門の医療機関にご相談ください。

文責
東大阪病院 副院長 / 救急科医
前島 健志