
つうふう
痛風の症状と原因
知っておきたい治療法と日常生活での注意点
ページ更新日:2025.8.31
「風が吹いただけでも痛い」と表現されるほどの激痛が突然関節を襲う「痛風(つうふう)」。その正体は、血液中の尿酸値が高い状態(高尿酸血症)が続くことで、尿酸が結晶となって関節に炎症を引き起こす病気です。英語では「Gout」と呼ばれます。日本国内の患者数は125万人を超えると推計され、特に30代から50代の男性に多く見られますが、食生活の変化などにより誰にでも起こりうる身近な疾患です。この記事では、「高尿酸血症・痛風の治療ガイドライン」など信頼できる情報に基づき、痛風のメカニズムから症状、原因、そして治療法やご自身でできる予防・セルフケアまで、網羅的に解説します。突然の痛みに悩む方、健康診断で尿酸値の高さを指摘された方の不安を解消するための一助となれば幸いです。
痛風とは?定義とメカニズム
痛風とは、体内で増えすぎた尿酸が「尿酸塩結晶」という針状の結晶になり、主に関節に沈着することで、突然の激しい痛みと腫れを伴う関節炎(痛風発作)を引き起こす疾患です。
私たちの体では、細胞の新陳代謝や、食事から摂取される「プリン体」という成分が分解される過程で尿酸が作られます。通常、尿酸は尿と一緒に体外へ排出され、血液中の濃度は一定に保たれています。しかし、何らかの原因で尿酸が過剰に作られたり、うまく排出されなくなったりすると、血液中の尿酸値が高い「高尿酸血症」の状態になります。この高尿酸血症が長く続くと、溶けきれなくなった尿酸が結晶化し、痛風発作につながると考えられています。
痛風の主な症状チェックリスト
痛風の最も特徴的な症状は、前触れなく始まる「痛風発作」です。以下のような症状に心当たりがないか確認してみましょう。
- 突然、足の親指の付け根などの関節が激しく痛み出した
- 関節が赤く、熱をもってパンパンに腫れている
- 痛みは夜間から明け方にかけて始まることが多い
- 軽い刺激(例えば、シーツが触れるなど)だけでも激痛が走る
- 痛みのピークは発症から24時間以内に訪れることが多い
- 発作の前兆として、関節に違和感やむずむずする感じがあった
痛風発作が最も起こりやすいのは足の親指の付け根(約70%)ですが、足首、膝、手の関節などに起こることもあります。痛みは通常7日から10日ほどで自然に治まりますが、放置すると発作を繰り返し、慢性化するおそれがあります。これまでに経験したことのないような関節の激痛が突然始まった場合は、速やかに医療機関を受診することが推奨されます。
痛風の原因とリスク要因
痛風の直接的な原因は「高尿酸血症」ですが、その背景には様々な生活習慣や体質が関わっています。
- 食生活:
レバー類や魚の干物、白子など「プリン体」を多く含む食品の過剰な摂取は、体内の尿酸を増やす原因となります。 - アルコール:
特にビールはプリン体を多く含みますが、アルコール自体に尿酸の産生を促進し、排出を妨げる働きがあるため、お酒の種類を問わず飲み過ぎはリスクとなります。 - 肥満:
内臓脂肪は尿酸の産生を増やし、腎臓からの排出を低下させることがわかっています。肥満は痛風の強力なリスク要因です。 - 清涼飲料水:
ジュースなどに含まれる「果糖」の摂りすぎも、体内で尿酸を増やす原因の一つと考えられています。 - ストレス:
強いストレスは、尿酸値を一時的に上昇させ、発作の引き金になることがあります。 - 遺伝的な要因:
尿酸を体外に排出しにくい、あるいは体内で作りやすいといった体質が遺伝することもあります。 - 性別と年齢:
患者の95%以上を男性が占め、30~50代での発症が目立ちます。女性は、女性ホルモンに尿酸の排出を促す働きがあるため発症しにくいですが、閉経後はそのリスクが高まります。
痛風の検査と診断基準
何科を受診すべきか
痛風が疑われる症状がある場合、まずはかかりつけの内科や、整形外科などを受診しましょう。「何科に行けばいいかわからない」という場合は、まずはお近くの内科に相談するのが一般的です。
診断は、主に以下の検査を組み合わせて行われます。
- 問診と診察:
どのような症状がいつからあるか、食生活や飲酒習慣、過去の病気などについて詳しく聞き取ります。 - 血液検査:
血液中の尿酸値(血清尿酸値)を測定します。健康診断でもよく行われる検査です。「高尿酸血症・痛風の治療ガイドライン(第3版)」では、性別を問わず血清尿酸値が7.0mg/dLを超えた状態を「高尿酸血症」と定義しています。 - 関節液検査:
痛風発作を起こしている関節に針を刺し、関節液を少量採取して顕微鏡で調べる検査です。この検査で特徴的な針状の尿酸塩結晶が確認されれば、痛風であると確定診断できます。 - 画像検査:
レントゲン検査や関節エコー(超音波)検査で、関節の状態や尿酸塩結晶の沈着を確認することがあります。
痛風の治療法:薬物療法とその他の選択肢
痛風の治療は、①痛風発作の痛みを抑える治療と、②発作の根本原因である高尿酸血症を改善する治療、の二段階で行われます。治療の基本は、薬物療法と生活習慣の改善です。
薬物療法
痛風の治療で使われる薬は、使用するタイミングによって異なります。
- 痛風発作を抑える薬:
発作が起きている間は、炎症と痛みを鎮めることが最優先です。主に「非ステロイド性抗炎症薬(NSAIDs)」という種類の痛み止めが用いられます。発作が起こりそうな予感がする時期には、「コルヒチン」という薬が使われることもあります。自己判断で市販の鎮痛薬を使うのではなく、必ず医師の診断のもとで処方された薬を服用してください。 - 尿酸値を下げる薬:
痛風発作が治まったら、再発を防ぐために尿酸値をコントロールする治療を開始します。これには、体内で尿酸が作られるのを抑える「尿酸生成抑制薬(アロプリノールやフェブキソスタットなど)」や、尿からの尿酸の排出を促す「尿酸排泄促進薬」などがあります。どの薬を選択するかは、患者さんの体の状態によって医師が判断します。「高尿酸血症・痛風の治療ガイドライン(第3版)」では、血清尿酸値を6.0mg/dL以下にコントロールすることが治療目標とされています。
手術・その他の治療
痛風の治療で手術が行われることはまれですが、尿酸塩の塊である「痛風結節」が非常に大きくなって神経を圧迫したり、関節の機能が著しく損なわれたりした場合には、それを取り除く手術が検討されることがあります。
日常生活での注意点と予防・セルフケア
薬物療法と並行して、生活習慣を見直すことが痛風の治療と再発予防において非常に重要です。
- 食事療法:
プリン体を多く含む食品(レバー、あん肝、白子、エビ、イワシやカツオなど)の摂取は控えめにしましょう。一方で、野菜や海藻、きのこ類、乳製品などは尿をアルカリ性に傾け、尿酸を排出しやすくすると考えられています。バランスの取れた食事が基本です。 - 十分な水分補給:
尿の量を増やして尿酸の排出を促すため、1日に2リットルを目安に水やお茶をこまめに飲みましょう。甘いジュースや清涼飲料水は、果糖が尿酸値を上げるため避けるのが賢明です。 - 節酒:
アルコールは尿酸値を上げるため、量を控えることが大切です。特にプリン体が多く含まれるビールは注意が必要ですが、焼酎やウイスキーなどの蒸留酒であっても飲み過ぎは禁物です。週に2日以上の休肝日を設けるなど、お酒との付き合い方を見直しましょう。 - 適度な運動:
肥満の解消は、尿酸値の改善に効果的です。ウォーキングなどの軽い有酸素運動を継続して行いましょう。ただし、急に激しい運動をすると、かえって尿酸値が上昇し発作の引き金になることがあるため注意が必要です。 - ストレス管理:
ストレスを上手に発散し、心身ともに健康な状態を保つことも大切です。
よくある質問(FAQ)
Q1. 尿酸値を下げる薬は、一生飲み続けないといけないのですか?
A1. 薬によって尿酸値が目標値(6.0mg/dL以下)で安定し、食事療法や運動療法などの生活習慣改善が定着すれば、医師の判断で薬の量を減らしたり、中止したりできる可能性はあります。しかし、自己判断で薬をやめてしまうと、高確率で再発します。必ず医師の指示に従ってください。
Q2. 痛風発作の激しい痛みは、いつまで続くのでしょうか?
A2. 適切な治療を行えば、通常は数日から長くても1~2週間で痛みは治まります。痛みのピークは発症後24時間以内であることが多いとされています。ただし、症状の強さや期間には個人差があります。
Q3. お酒は完全にやめなければなりませんか?
A3.「高尿酸血症・痛風の治療ガイドライン」では、禁酒が望ましいとされています。どうしてもお付き合いなどで飲む必要がある場合は、節酒を徹底しましょう。日本痛風・尿酸核酸学会が示す目安量として、1日あたり日本酒なら1合、ビールなら500mL、ウイスキーなら60mLまでとされています。
Q4. 「プリン体ゼロ」や「糖質ゼロ」と書かれたビール系飲料なら飲んでも大丈夫ですか?
A4.プリン体がゼロであっても、アルコール自体に尿酸値を上げる作用があります。そのため、これらの飲料であっても飲み過ぎは痛風のリスクを高めることにつながります。飲む量には注意が必要です。
まとめと次のステップ
この記事の重要なポイントをまとめます。
- 痛風は、血液中の尿酸値が高くなる「高尿酸血症」が原因で起こる、激しい痛みを伴う関節炎です。
- 主な原因は、プリン体の多い食事、アルコール、肥満、ストレスといった生活習慣の乱れが関係しています。
- 治療は、発作時の痛みを抑えることと、尿酸値を下げる薬物療法、そして生活習慣の改善が三つの柱となります。
- 突然の足の激痛など、痛風を疑う症状が現れたら、自己判断せず速やかに内科やリウマチ科などの医療機関を受診してください。
痛風は、その激しい痛みから生活の質(QOL)を大きく低下させる疾患ですが、正しく治療し、生活習慣を見直すことで、発作をコントロールし、健康な生活を送ることが十分に可能です。健康診断で尿酸値の高さを指摘されたり、体に気になる症状があったりする場合は、決して放置せず、医療機関に相談することから始めましょう。
免責事項:
本記事は疾患に関する一般的な情報提供を目的としています。記載内容には万全を期しておりますが、その正確性・最新性を保証するものではありません。本記事の情報は医学的アドバイスの提供ではなく、実際の診療行為に代わるものでもありません。症状や体調に不安がある方は、必ず専門の医療機関でご相談ください。