
きゅうせいちゅうすいえん(もうちょう)
急性虫垂炎(盲腸)の症状と原因
知っておきたい治療法と日常生活での注意点
ページ更新日:2025.8.31
急な腹痛、特に「みぞおちのあたりが痛みだし、だんだん右下腹部に痛みが移ってきた」という経験はありませんか。それは「急性虫垂炎」のサインかもしれません。急性虫垂炎は、一般的に「盲腸」とも呼ばれ、大腸の端にある虫垂という小さな臓器に炎症が起こる病気です。生涯で約15人に1人が経験するといわれるほど身近な病気で、特に10代から30代の若い世代に多く見られます。しかし、どの年齢でも発症する可能性があります。
この記事では、急性虫垂炎の典型的な症状から原因、検査・診断方法、そして治療の選択肢までを分かりやすく解説します。放置すると重篤な腹膜炎に至る危険性もあるため、正しい知識を得て、いざという時に迅速に対応できるようにしましょう。
急性虫垂炎とは?定義とメカニズム
急性虫垂炎とは、大腸の一部である盲腸の先についている、細長い「虫垂(ちゅうすい)」という部分に、急な炎症が起こる病気です。
虫垂は長さ5~10cmほどの細い管状の臓器で、その役割は現代医学でも完全には解明されていませんが、リンパ組織が集まっていることから免疫機能に関わっているという説もあります。
この虫垂の入り口が、糞石(ふんせき:硬くなった便の塊)や食べ物のカス、あるいはリンパ組織の腫れなどによって塞がれると、内部に細菌が繁殖し、炎症が起こって腫れ上がります。これが急性虫垂炎の発症メカニズムと考えられています。
急性虫垂炎の主な症状チェックリスト
急性虫垂炎の症状は、時間とともに変化していくのが特徴です。以下に典型的な症状を挙げます。当てはまるものがないか確認してみましょう。
- 最初はみぞおち(胃のあたり)やおへその周りに痛みを感じる。
- 数時間から1日かけて、痛みが右下腹部へ移動してくる。
- 右下腹部を押すと強い痛みがある(圧痛)。
- 咳をしたり、歩いたり、ジャンプしたりするとお腹に響いて痛い。
- 37~38度程度の発熱を伴うことがある。
- 吐き気や嘔吐、食欲不振が見られる。
これらの症状は個人差があり、全ての症状が現れるわけではありません。しかし、「時間の経過とともに痛む場所が変わる」「歩くと響くような右下腹部の痛み」は、急性虫垂炎を疑う重要なサインです。我慢できないほどの激しい痛みや、冷や汗が出るような場合は、虫垂が破れて重篤な合併症を引き起こしている可能性もあるため、すぐに医療機関を受診することが推奨されます。
急性虫垂炎の原因とリスク要因
急性虫垂炎の最も有力な原因として考えられているのが「糞石」です。これは、便の一部が石のように硬くなって虫垂の入り口を塞いでしまう状態です。
その他、以下のような要因が関与していると考えられています。
- リンパ組織の腫れ:
風邪などのウイルス感染や細菌感染により、虫垂内部のリンパ組織が腫れて入り口を塞ぐことがあります。 - 生活習慣の乱れ:
過労やストレス、暴飲暴食などが、体の免疫力を低下させ、発症の引き金になることがあると考えられています。 - 便秘:
便秘がちだと糞石ができやすくなる可能性があります。
特定の食べ物が直接の原因になるという医学的な証拠はありませんが、バランスの取れた食生活や便通を整えることは、リスクを減らす上で間接的に役立つ可能性があります。
急性虫垂炎は特に10代から30代の若年層に多く発症しますが、小児や高齢者を含め、あらゆる年齢層で起こりうる病気です。
急性虫垂炎の検査と診断基準
何科を受診すべきか
急性虫垂炎が疑われる症状がある場合、まずは「消化器内科」を受診するのが一般的です。夜間や休日でどこを受診すべきか分からない場合は、救急外来に相談してください。
診断は、主に以下の検査を組み合わせて行われます。
- 問診と触診:
いつから、どこが、どのように痛むかといった詳しい症状の聞き取りと、お腹を直接触って痛みの場所や程度を確認します。特に右下腹部の圧痛や反跳痛の有無は重要な所見です。 - 血液検査:
体内の炎症反応の程度(CRPという数値や白血球数の上昇)を調べることで、炎症の有無や強さを客観的に評価します。 - 画像検査
- 腹部エコー(超音波)検査:
体に負担の少ない検査で、腫れ上がった虫垂の状態を確認できます。 - CT検査:
お腹の断面を撮影し、虫垂の炎症の程度や、膿が溜まっていないか、他の病気の可能性はないかなどをより詳しく調べることができる非常に有用な検査です。
これらの検査結果を総合的に判断し、急性虫垂炎の診断が確定されます。
急性虫垂炎の治療法:薬物療法とその他の選択肢
急性虫垂炎の治療には、大きく分けて「薬物療法(保存的治療)」と「手術」の2つの選択肢があります。炎症の程度や患者さんの状態によって、最適な治療法が選択されます。
薬物療法
「薬で散らす」とも呼ばれる治療法で、炎症が比較的軽い初期の段階で選択されることがあります。抗生物質の点滴を行い、炎症を抑えることを目的とします。絶食と点滴で腸を休ませる必要があり、数日間の入院が必要となるのが一般的ですが、外科で治療を続けることもあります。
この治療法の利点は、手術による体への負担や傷跡が残らないことですが、一方で、約20~30%の確率で再発する可能性があるという欠点も指摘されています。
手術・その他の治療
手術は、急性虫垂炎の最も標準的で確実な治療法です。炎症を起こしている虫垂そのものを切除します。手術は、基本的に腹腔鏡下で行います。
- 腹腔鏡下虫垂切除術:
お腹に数ヶ所(3~4ヶ所)の小さな穴を開け、そこからカメラや手術器具を挿入して行う手術です。傷が小さく、術後の痛みが少なく、回復が早いのが特徴ですが、術中所見により、従来の開腹手術に切り替える場合があります。
日常生活での注意点と予防・セルフケア
急性虫垂炎の発症を確実に防ぐ方法は現在のところありません。しかし、リスクを低減するために心がけられることはいくつかあります。
- バランスの取れた食生活:
食物繊維を多く含む野菜や果物を積極的に摂り、便通を整えることが、原因の一つとされる糞石の予防につながる可能性があります。 - 生活習慣の改善:
過労やストレス、睡眠不足を避け、規則正しい生活を送ることで、体の免疫力を保つことが大切です。
手術後は、医師の指示に従い、消化の良い食事から少しずつ慣らしていくことが重要です。退院後しばらくは、お腹に負担のかかる激しい運動は避けるようにしましょう。
よくある質問(FAQ)
Q1. 薬で散らす治療と手術、どちらが良いのでしょうか?
A1. どちらの治療法が適しているかは、炎症の程度や患者さんの年齢、健康状態によって異なります。軽症の場合は薬で散らす治療も選択肢になりますが、再発の可能性があることを理解しておく必要があります。それぞれのメリット・デメリットについて、担当の医師とよく相談して決めることが重要です。
Q2. 入院期間はどのくらいですか?仕事や学校はいつから復帰できますか?
A2. 症状の程度や治療法によって異なります。薬で散らす治療の場合、3~7日程度の入院が一般的ですが、外来で治療ができる場合もあります。腹腔鏡下手術の場合、入院期間は3~5日程度が目安です。退院後は、徐々に普段の日常生活に戻してください。
Q3. 治療費はどのくらいかかりますか?
A3.費用は治療内容、入院日数、病院、保険の適用範囲によって大きく変動しますが、一般的に健康保険(3割負担)を適用した場合、薬で散らす治療で10万円前後、腹腔鏡下手術で15~25万円程度が目安とされています。高額療養費制度を利用できる場合もありますので、詳しくは医療機関の窓口やご加入の健康保険組合にご確認ください。
Q4. 痛みを我慢して放置するとどうなりますか?
A4.放置すると炎症が悪化し、虫垂の壁が破れてしまう「穿孔(せんこう)」を起こす危険性があります。穿孔すると、細菌や膿がお腹全体に広がり、命に関わることもある「汎発性腹膜炎(はんぱつせいふくまくえん)」という重篤な状態に陥ることがあります。腹痛を感じたら、我慢せずに早めに医療機関を受診することが極めて重要です。
まとめと次のステップ
急性虫垂炎について解説しました。最後に重要なポイントをまとめます。
- 急性虫垂炎は、みぞおちから右下腹部の痛みが多い、身近な緊急疾患です。
- 原因は糞石などによる虫垂の閉塞が多く、放置すると腹膜炎など重篤な状態になる危険があります。
- 治療法には抗生物質で炎症を抑える「薬で散らす」方法と、原因を根本から取り除く「手術」があります。
- 疑わしい症状があれば、我慢せずに消化器内科、救急外来を受診してください。
突然の腹痛は誰にとっても不安なものです。この記事が、急性虫垂炎への正しい理解と、適切な受診行動につながれば幸いです。もしご自身の症状に不安を感じたら、迷わず専門の医師に相談してください。
免責事項:
本記事は疾患に関する一般的な情報提供を目的としています。記載内容には万全を期しておりますが、その正確性・最新性を保証するものではありません。本記事の情報は医学的アドバイスの提供ではなく、実際の診療行為に代わるものでもありません。症状や体調に不安がある方は、必ず専門の医療機関でご相談ください。