
きゅうせいたんのうえん
急性胆嚢炎の症状と原因
右腹部の激痛は危険信号?治療法や手術、入院期間も解説
ページ更新日:2025.8.31
「みぞおちや右の脇腹に、脂汗が出るほどの激しい痛みが続く」「高熱や吐き気もある」…もし、このような症状に悩まされているなら、それは「急性胆嚢炎(きゅうせいたんのうえん)」かもしれません。急性胆嚢炎は、胆石などが原因で胆嚢(たんのう)という臓器に急な炎症が起こる病気です。日本では胆石を持つ人が10人に1人いるともいわれ、決して珍しい病気ではありません。多くの場合、緊急の治療が必要となり、放置すると命に関わる状態に進行することもあります。この記事では、急性胆嚢炎の症状や原因、診断方法から、手術などの治療法、日常生活での注意点まで、医学的な情報に基づき分かりやすく解説します。ご自身の症状と照らし合わせ、適切な対処への第一歩としてお役立てください。
急性胆嚢炎とは?定義とメカニズム
急性胆嚢炎とは、肝臓の下にある「胆嚢」という袋状の臓器に、急性の炎症が起こる病気です。胆嚢は、肝臓で作られた消化液である「胆汁(たんじゅう)」を一時的に溜めて濃縮する役割を担っています。食事をすると、胆嚢は収縮して胆汁を十二指腸に送り出し、主に脂肪の消化を助けます。
急性胆嚢炎が起こる最も一般的なメカニズムは、胆嚢の中にできた「胆石(たんせき)」が原因です。この胆石が、胆汁の通り道である胆嚢管(たんのうかん)に詰まって出口を塞いでしまうと、胆汁の流れが滞り(胆汁うっ滞)、胆嚢が内側から圧迫されて腫れ上がります。そして、滞った胆汁の中で細菌が繁殖し、急激な炎症と強い痛みを引き起こすのです。このように胆石が原因で起こるものを「胆石性胆嚢炎」と呼び、急性胆嚢炎の90%以上を占めるとされています。
急性胆嚢炎の主な症状チェックリスト
急性胆嚢炎を発症すると、以下のような特徴的な症状が現れます。気になる症状がないか確認してみましょう。
・右の肋骨の下あたりの持続的な激しい痛み
・みぞおちの痛み
・痛む場所を押した時や、息を吸った時に強くなる圧痛
・38度以上の高熱や悪寒(寒気と震え)
・吐き気、嘔吐
・食欲不振
初期症状として、脂っこい食事をとった後に、みぞおちや右腹部に重苦しい痛みを感じることがあります。これが次第に激しい持続的な痛みに変わっていくのが典型的な経過です。これらの症状は、放置すると胆嚢が壊死したり、穴が開いたり(穿孔)、細菌が血液に入って全身に回る「敗血症」という重篤な状態に陥る危険性があります。我慢できないほどの強い腹痛や高熱がある場合は、すぐに医療機関を受診することが重要です。
急性胆嚢炎の原因とリスク要因
急性胆嚢炎の直接的な原因のほとんどは胆石ですが、その背景にはいくつかのリスク要因が関わっていると考えられています。
最大の原因は「胆石(胆嚢結石)」です。「急性胆管炎・胆囊炎診療ガイドライン2018」においても、急性胆嚢炎の約9割が胆石によるものとされています。胆石は、コレステロールやビリルビン(古くなった赤血球の成分)が胆汁中で固まってできる結晶です。
胆石以外の原因として、まれに「無石胆嚢炎(むせきたんのうえん)」と呼ばれる、胆石がないにもかかわらず発症するタイプもあります。これは、大きな手術や重度の外傷、長期の絶食、糖尿病などが引き金となり、胆嚢の動きが悪くなって胆汁がうっ滞し、細菌感染を起こすものと考えられています。過度なストレスや極端な疲労が間接的な誘因となる可能性も指摘されています。
また、脂肪分の多い食生活は胆石ができやすくなるため、急性胆嚢炎の遠因となると考えられています。
急性胆嚢炎の検査と診断基準
何科を受診すべきか
右腹部の激痛など、急性胆嚢炎が疑われる症状がある場合は、速やかに「消化器内科」を受診してください。夜間や休日であれば、救急外来を受診する必要があります。
医療機関では、以下のような検査を組み合わせて診断を行います。
- 問診と身体診察:
症状の詳しい聞き取りと、腹部の圧痛を確認します。 - 血液検査:
白血球数やCRPといった「炎症反応」の数値上昇、肝機能や胆道系酵素の数値を調べて、炎症の程度や肝臓・胆管への影響を確認します。 - 腹部超音波(エコー)検査:
胆嚢の腫れや壁の肥厚、胆嚢内の胆石の有無、胆嚢周囲に液体が溜まっていないかなどをリアルタイムで確認できます。 - CT検査:
超音波検査で診断が難しい場合や、胆嚢の穿孔、膿瘍(膿のたまり)といった合併症が疑われる場合に行われます。より広範囲の状態を詳しく評価できます。
これらの検査結果を、「急性胆管炎・胆囊炎診療ガイドライン2018」などの国際的な診断基準に照らし合わせて、総合的に急性胆嚢炎の診断が確定されます。
急性胆嚢炎の治療法:薬物療法とその他の選択肢
急性胆嚢炎の治療は、炎症の重症度や患者さんの全身状態によって選択されますが、根本的な治療は炎症の原因となっている胆嚢を摘出することです。
薬物療法
まず、入院して絶食・補液(点滴)を行い、胆嚢を安静にさせます。これと並行して、以下のような薬物療法が行われます。
- 抗菌薬:
細菌感染を抑えるための薬です。炎症の拡大を防ぎ、敗血症への進行を予防します。 - 鎮痛薬:
強い痛みを和らげるために使用します。
軽症の場合、これらの保存的治療で一時的に症状が改善することもあります。しかし、原因である胆石が残っている限り再発のリスクが高いため、多くの場合、後述する手術が推奨されます。
手術・その他の治療
- 胆嚢摘出術:
急性胆嚢炎の根治的治療であり、最も標準的な方法です。ガイドラインでも、発症後なるべく早い段階(多くは72時間以内)での手術が推奨されています。現在では、お腹に数か所の小さな穴を開けて行う「腹腔鏡下胆嚢摘出術」が主流です。この方法は、傷が小さく痛みが少ないため、患者さんの身体的負担が少なく、入院期間も短縮できる利点があります。ただし、炎症がひどい場合や癒着が強い場合は、安全のために「開腹手術」に切り替えることもあります。 - 経皮経肝胆嚢ドレナージ(PTGBD):
重症で全身の状態が悪く、すぐに手術ができない患者さんに対して行われる処置です。超音波で確認しながら、体の外から胆嚢に直接細い管(チューブ)を刺し、溜まってパンパンに腫れた胆汁を体外に排出します。これにより胆嚢の内圧が下がり、炎症を鎮めることができます。全身状態が改善した後に、改めて胆嚢摘出術を行うことが一般的です。
日常生活での注意点と予防・セルフケア
急性胆嚢炎の治療後、特に胆嚢摘出術を受けた後は、再発防止と健やかな生活のためにいくつか注意点があります。
- 食生活の見直し:
胆嚢炎の最大の原因である胆石の予防が重要です。脂肪分の多い食事やコレステロールの高い食品(肉の脂身、揚げ物、バター、卵黄など)を控え、バランスの取れた食事を心がけましょう。 - 低脂肪食:
胆嚢摘出後は、胆汁が直接腸に流れるため、一度に多くの脂肪を摂取すると消化しきれずに下痢を起こしやすくなることがあります。術後しばらくは、消化の良い低脂肪食を心がけ、徐々に通常の食事に戻していくことが推奨されます。 - 適度な運動:
肥満は胆石のリスクを高めるため、ウォーキングなどの適度な運動を習慣づけ、適正体重を維持することも予防につながります。 - 規則正しい食生活:
食事を抜くと胆汁が胆嚢に溜まったままになる時間が長くなり、胆石ができやすくなるともいわれています。1日3食、規則正しく食べることも大切です。
よくある質問(FAQ)
Q1. 手術は必ず必要ですか?薬で治せませんか?
A1. 抗菌薬などで一時的に炎症を抑えることは可能ですが、原因である胆石が胆嚢に残っている限り、約25%の方が1年以内に再発するといわれています。再発を繰り返し重症化するリスクもあるため、根治的な治療として胆嚢摘出術が第一に推奨されます。
Q2. 入院期間はどのくらいになりますか?
A2. 症状の重症度や治療法によって異なります。一般的に、腹腔鏡下胆嚢摘出術の場合、手術後の経過が順調であれば3日から1週間程度の入院となることが多いです。開腹手術や、ドレナージなどの処置が必要な場合は、より長い入院期間が必要になることがあります。
Q3. 胆嚢をとってしまっても、生活に影響はありませんか?
A3.胆嚢は胆汁を溜めておくだけの臓器であり、胆汁そのものは肝臓で作られるため、摘出しても生命維持に直接的な問題はありません。多くの方は、術前と変わらない生活を送ることができます。ただし、前述の通り、術後しばらくは脂肪分の多い食事で下痢をしやすくなることがあるため、食生活に少し注意が必要です。
まとめと次のステップ
急性胆嚢炎について、重要なポイントを以下にまとめます。
- 急性胆嚢炎は、主に胆石が原因で起こる胆嚢の急な炎症です。
- 右の脇腹や右肋骨の下、みぞおちの激しい痛み、発熱、吐き気は危険なサインです。
- 診断には腹部超音波検査やCTを使用し、治療の基本は胆嚢を摘出する手術です。
- 現在の手術は、体の負担が少ない腹腔鏡手術が主流となっています。
- 気になる症状があれば、決して我慢せず、速やかに消化器内科を受診してください。
突然の激しい腹痛は、誰にとっても非常につらく、不安なものです。しかし、急性胆嚢炎は早期に適切な診断と治療を受ければ、多くの場合、良好に回復する病気です。この記事の情報が、あなたの不安を少しでも和らげ、適切な受診行動につながる一助となれば幸いです。
免責事項:
本記事は疾患に関する一般的な情報提供を目的としています。記載内容には万全を期しておりますが、その正確性・最新性を保証するものではありません。本記事の情報は医学的アドバイスの提供ではなく、実際の診療行為に代わるものでもありません。症状や体調に不安がある方は、医療機関でご相談ください。